のみ隊員のブログ

ばってん少女隊に関する記事を書いています。

ばっしょーから学ぶ九州方言 第3回「よか」


この記事は九州を拠点とするアイドルグループ、ばってん少女隊の楽曲の歌詞やメンバーの日常会話などから九州方言を学び、メンバーの話す言葉をより深く理解したり自分も話せるようになったりしよう! という 趣旨の記事です。

少々遅くなりましたが、第3回「ばっしょーから学ぶ九州方言」のお時間がやってまいりました。


前回の「けん/ばってん」はこちら。
(今回の内容は以前の内容の知識がなくても、大半が理解できるものとなっています)
plassey1757.hatenablog.com


第1回から読みたいなという方はこちら。
plassey1757.hatenablog.com


今回は有名な九州方言である「よか」について学んでいきたいと思います。
「よか」については同様のパターンの単語も多くありますので、併せて見ていきましょう。

それでは早速始めましょう!! Let’s begin!!!


今回扱う「よか」について

ばってん少女隊で「よか」と聞けば、多くの人が思い浮かべるのが「よかよかダンス」ではないでしょうか。

youtu.be

よかよかダンス!(HEY!)
よかよかダンス!(HEY!)
よかよかよかよかよかよかダンス!(KAMEHAMEHA-!)
ばってん少女隊「よかよかダンス」[引用1]

ここでは「よかよか」でひとまとまりのように歌詞が書かれていますが、実際には「よか」で一つの単語を形成しています。

ばってん、なんばしよってもよかでしょ
乙女心コロコロばい
ばってん少女隊「おっしょい」[引用2]

確かに、「よか」で1つの単語として使われていますね。


ここで九州の方言を見渡してみます。すると、語尾が「~か」で終わる単語が多くあることに気づかされるのではないでしょうか。

Yo!はよ! アツか夏!きたばい!
Yo!はよ! すごか夏!きたばい!
Yo!はよ! 弾けたら よかばい!
あ~でも こ~でも なかろうもん!
ばってん少女隊「アツか夏きたばい」[引用3]

「~か」で終わっているこれら全ての単語は、同じ法則で説明することができます。
そのため、今回は「よか」以外の「アツか」「すごか」「なか」など全ての「~か」となる単語を扱います。

具体例に「よか」以外の「~か」となっている単語が出てきても、びっくりしないでくださいね。

「よか」を理解する

ここからは「よか」について理解していきましょう。

「よか」の共通語訳

「よか」の共通語訳は「よい」です。

だから全出力で
それそれそれそれ それでよか
ばってん少女隊「アツか夏きたばい」[引用3]

【共通語訳】
だから全出力で
それそれそれそれ それで良い


これはなんとなく分かっている方も多かったのではないでしょうか。
なお、この「よか」は形容詞です。

【形容詞】
物事の性質や状態を説明する品詞で、名詞を修飾する。現代日本語(共通語)では、語尾が必ず「~い」で終わる

今回の「よか」は形容詞であることがわりと重要になってきますので、覚えていてくださいね。

「よい」→「よか」の変化の仕組み

さて、「よか」では、「よ」の「」が「か」に変化していますね。
この仕組みについて詳しく見ていきましょう。

形容詞の活用

まず、共通語の形容詞の活用について復習しましょう。


動詞・形容詞・形容動詞などの「用言」は後ろにくっつく形に合わせて、未然・連用・終止・連体・仮定・命令の6つのパターンに変化するのでした。

このとき、後ろの形に合わせて変化する部分を「活用語尾」、変化しない部分を「語幹」と言います。

例)
「よい」
語幹:「よ」 活用語尾:「い」

「アツかっ」た
語幹:「アツ」 活用語尾:「かっ」



形容詞の活用語尾だけを取り出した表がこちら。

皆さんも、中学生のとき「かろ・かっ・く・う・い・い・けれ・まる」なんて暗唱させられませんでしたか?
あの呪文の正体は、この表を指していたんですね。

終止形・連体形の変化

ここが今回の本題。九州方言では、先ほどの表の終止形・連体形の欄が「」に変化するのです。

こうして、できたのが「よか」という形容詞です。

この法則は形容詞全般に当てはまります。そのため、同様の手順によって「アツか」「すごか」「なか」などの形容詞も出来上がります。
もちろん、これらの意味も元の形容詞「アツい」「すごい」「ない」と同じ意味になるのは、お分かりかと思います[脚注1]
なお、この「か」に変化した語尾のことを、文法用語でカ語尾と言います。

九州に固有の形容詞

また、九州方言に特有の形容詞も存在し、それらはすべて「~か」で終わっています。

一番有名なものは「せからしか」ではないでしょうか。

ヤメて!ヨシて!ヤメて!ヨシて!
触らないで …でも好き。(どっちばい)
話さないで 話さないで
…離さないで。(からし
ばってん少女隊「OTOMEdeshite」[引用4]

【共通語訳】
ヤメて!ヨシて!ヤメて!ヨシて!
触らないで …でも好き。(どっちよ)
話さないで 話さないで
…離さないで。(からし


上の訳では「せからしい」と訳しましたが、「せからしい」なんて単語知らないですよね??[脚注2]
これは九州方言独特の形容詞なんですね。

【せからしか】(形)
うるさい。鬱陶しい。煩わしい。
「人や物がせわしなくしていて不快だ」ということ。

このOTOMEdeshiteの歌詞では、「相手が好きでお喋りしたいのに、照れ隠しで拒絶してしまう心の様子」が表現されています。そんな状況下で「話さないで」と「離さないで」という矛盾した要求をしている心の中は混沌としており、その混沌さが「せからしか」という言葉に託して表現されているのではないでしょうか。
※このOTOMEdeshiteの歌詞内容に関する文章は記事を書いている時点での筆者の解釈であり、絶対的なものではありません。皆さんの中で「自分は『せからしか』をこう解釈する」という意見のある方がいらっしゃいましたら、是非コメント欄などで教えてください。


また、「しぇからしか」も同一単語です。

ちゃちゃちゃ!よかとばい?
しぇからし!よ~い!GO!
ばってん少女隊「ばってん少女。」[引用5]

【共通語訳】
ちゃちゃちゃ!良いのね?
からし!よ~い!GO!


「せからしか」が「しぇからしか」と表記されることがあるのは、古くからの博多弁話者の方はサ行を言うのが苦手で、シャ行に聞こえることが多いからです。

実際に、福岡県福岡市出身の武田鉄矢さんがドラマ「101回目のプロポーズ」に出演したときの名台詞
「僕は死にましぇん! あなたが好きだから!」
からも、博多弁ではサ行が言いにくいことが分かりますね。[脚注3]


カ語尾の語源

さて、このカ語尾の語源は何なのでしょうか。
語源は古文にあると言われています。

上記は、古文の形容詞の活用を示した表です。右側を本活用・左側を補助活用と言いますが、このうち左側の補助活用のほうはすべて「か」で始まっていますよね。この「か」が現在の九州方言「よか」などに見られる、カ語尾の語源となっているようです。

「よかよか」の意味

さて、冒頭ではよかよかダンスを「よか」の例として挙げましたね。

youtu.be

「よか」を2連続で言う「よかよか」。実はコレ、九州の方が実際に使うことが多いんです。

意味としては特に「よか」と変わることはなく「よい」という意味なのですが、九州の方は感情が伴っているときは「よかよか」と続けて言いがちなんですね。

Aさん「あのとき、あんなこと言っちゃってごめんね」
Bさん「よかよか!! 気にせんでよかよ~!」

この例文では、単に「よかよ」だけで返すのではなく「よかよか!!」と返答することによって、Bさんは心の底から気にしておらず、Aさんの発言を許しているんだなという感情が感じられます。

……このニュアンスを文章で伝えるのは難しいです。お笑い芸人の博多華丸さんが居酒屋のネタで「よかよか!」と言う様子を想像してみると、少しはニュアンスが分かるかもしれません。


また、「なか」を続けて「なかなか」や「アツか」を続けて「アツかアツか」などと言うことはあまりありません。
「よかよか」は語呂も良く言いやすいため、「よか」だけが2連続で「よかよか」と言われるようになったのではないかと思われます。

「よか」を実際に使用する

ここからは、「よか」を含めた形容詞のカ語尾の使い方について、実際に見ていきましょう。

「い」を「か」に変化させればOK!

ここまで見てきた通り、形容詞の「い」を「か」に置き換えると完成です。

【例】
可愛 → 可愛
 → 寒
うるさ → うるさ
楽し → 楽し
苦し → 苦し


また、このルールは基本的に[脚注4]形容詞にのみ適用されます。従って、以下のような例は基本的にNGです。

【例】
無理か
→「無理い」という形容詞はないので不可[脚注4]

「い」を「か」に変える頻度

「い」を「か」に変える頻度に関しては、九州の中でも地域差があります。また、同じ地域でも人によって差があります。
そのため一概に言うことはできないですが、ここでは筆者が以前住んでいた長崎で目にした例を掲載したいと思います。

終止形よりも連体形のときのほうが頻度が低い

終止形とは、直後に「。」「よ」「ね」などが付く形のこと。連体形とは、直後に名詞が付く形のことです。
これは筆者の肌感覚でしかないのですが、終止形のときよりも連体形のときのほうが、「い」が「か」に変わる頻度が低いように思います。

【例】
「今晩は美味いラーメン食べたかばい」
【共通語訳】
「今晩は美味いラーメン食べたいな」

この文では「美味い」を「美味か」にしてもよいのですが、このように「い」のまま話していることが多々あるように感じます。
なお、ここで挙げられた「美味か」は九州発の袋麺「うまかっちゃん」の語源でもあります。

九州方言で話していても、必ずカ語尾になる訳ではない

また、九州の方言で話しているからといって、必ずしも「い」が「か」に変化するとは限りません。
以下は筆者が実際に長崎で目にした用例です。

【例】
「別にそんなことはないけど、……」
【共通語訳】
「別にそんなことはないのだけど、……」

この文章では、第1回で学習した九州方言の「と」が使用されていますが、「ない」の部分は「なか」に変化していません。
このように、実際に使用するのであればなんでもかんでも「い」を「か」に変えていればOKというわけではないです。長崎では、接続助詞(「けど」「けん」など)の近くにある形容詞はカ語尾にならないという傾向があるように筆者は感じました。
ただ、この例については長崎出身の隊員さんの中に「『ないとけど』も『なかとけど』も両方言う人がいるけど、私は『なかとけど』派」などと言ってらっしゃる方もいたので、一概には言えないようです。そのため、九州で生まれ育った人と溶け込みたいのであれば、(地域や人によってよく変化するので)周囲の人のカ語尾の頻度をよく観察して使用するようにしましょう。


全国相互利用交通系ICカードにも……

さて、話は変わって皆さんは全国相互利用交通系ICカードはお持ちでしょうか。

北海道にお住まいの方であればKitaca、関東であればSuicaPASMO中部地方ならtoicamanaca、関西地方ならICOCAPiTaPaをお持ちかと思います。
※仙台のicscaや四国のIruCa、広島のPASPYなどは全国相互利用ではありません


全国どこでも使えるカードは全部で10種類あるのですが(合わせて「10カード」と言います)、このうち九州発のカードが以下の3枚です。

nimoca、SUGOCA、はやかけんの写真
画像のnimocaは長崎限定デザイン

上段が、西鉄西日本鉄道。九州を代表する大手私鉄)が発行するnimoca
下段右が、JR九州が発行するSUGOCA
下段左が、福岡市交通局福岡市営地下鉄)が発行するはやかけん

このうち下段の2つに注目してみます。

SUGOCA

SUGOCA→「スゴか」

今日ここまで読んできた皆さんなら分かるはず。
そうです。SUGOCAは「すごい!」という意味ですね。「切符を通さなくても一瞬で改札を抜けられてすごい!」という意味が込められているのではないでしょうか。

はやかけん

これはもうそのままですね。
第2回で学習した「けん」の内容も思い出してみると、「はやかけん」は「はやいから」という意味になりますね。


――切符券売機の前でモタモタしている少年。そこにすかさず

博多美少女「このカード使ったら、はやかけん!」

と言って、はやかけんを渡す様子が想像できますね(?)。


このように、「形容詞のカ語尾」は交通系ICカードの名称にも反映されているのでした。
皆さんも福岡を訪れた際は、九州のICカード全3種類のコンプリートを目指してみてくださいね。

まとめ

今日は「よか」を重点的に、形容詞全般について見ていきました。
そんな本日のまとめは、
形容詞の活用語尾「い」を「か」に変えたら九州方言になる!!
とさせていただきたいと思います。

それではまた次回お会いしましょう!!
最後まで読んでくださり、ありがとーと🤞




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  • coming soon



脚注

^:形容詞の活用語尾が「い」から「か」に変化しても、形容詞そのもののニュアンスは全く変わりません。

^:「『せからしい』なんて単語知らないでしょ?」と筆者の母に訊くと、「いや言うよ……?」と言われたことがあります。母は生まれも育ちも関西である(九州に住んだこともない)ハズなんですが、母の言語感覚では「せからしい」は使用するようです。私の母と同じように「せからしい」という単語の使用を自然に感じる方も、この記事を読んでいる皆さんの中にいらっしゃるかもしれません。

^武田鉄矢さんの演じた役柄は博多弁話者という設定ではないですが、このときの武田鉄矢さんは、熱演するあまりに博多弁が出てしまったそうです。

^:九州の中でも地域によっては、形容動詞の活用語尾「だ」にカ語尾のルールを当てはめる場合があります(参考文献)。ただ、少なくとも福岡や長崎などの北部九州では稀であるため、ここでは基本的にNGと表記しました。なお、このルールを当てはめると後述の「無理か」の例は「無理だ」という形容動詞が変化したものと言えるので、可となります。


引用文献

^ばってん少女隊「よかよかダンス」,2016年発売,作詞・作曲 小野武正

^ばってん少女隊「おっしょい」,2016年発売,作詞・作曲 渡邊忍

^ ^ばってん少女隊「アツか夏きたばい」,2015年発売,作詞・作曲 木下智哉

^:ばってん少女「OTOMEdeshite」2020年発売,作詞・作曲 久下真音

^ばってん少女隊「ばってん少女。」2015年発売,作詞・作曲 AKIRASATAR

特記事項

・この記事は隊員(「ばってん少女隊のファン」の意)が作成した、非公式の記事です
・この記事は九州方言に魅了された関西人が、方言に関する文献を読んだり、実際に長崎に住んだ経験をもとにして書いています
・筆者が九州方言に関しては非ネイティブであるため、九州出身の隊員の方にご協力いただき、内容を校閲していただいております
・記事の内容の正誤には十分注意していますが、それでも九州出身の方で「自身の感覚とは異なった説明がなされているな」と感じる可能性があります。その場合、下のコメント欄でこっそり教えていただけると嬉しいです
・そもそも言語感覚は十人十色なものです。ここに書いてある内容が九州方言を話す人全員に当てはまる訳ではない可能性もあります
・記事の内部で文法的な説明を試みているところがありますが、方言という分野の特性上、学術的にも定説が定まっていないものも多くあり、筆者の独自の理解も交えて説明をしております。また、定説が定まっているものであっても、(十分注意しておりますが)筆者の学習不足により誤った情報を伝えている可能性もあります。この記事の内容は、あくまで趣味の範囲のものであることをご理解ください
・この記事の一部では敬称略とさせていただいたところがあります
・この記事の例文などで、ばってん少女隊のメンバーの名前が挙がっているときがありますが、特に出典のないものはすべて筆者が考えた文章であり、フィクションです

Special Thanks:事前に読んでいただいて、ご意見をくださった九州出身の隊員の皆さん